太郎と花子
全く同じ2棟の高層ビルのライトアップを計画した時に、その2棟のビルの図面を見て、なぜかとても愛着が沸き、まるで話しかけられているような気持ちになりました。私はこの2棟に、それぞれの命を持った生命体の鼓動を感じたというのでしょうか。そして、この2棟に、「太郎」と「花子」と名付けて、ライトアップでそれぞれの鼓動を表現しようと思いました。人の呼吸のテンポもみな一人一人違います。「太郎」と「花子」にも個としてのパーソナリティーを与えてあげました。二人は別々の周期で呼吸を繰り返します。そしてある瞬間に二人の呼吸が合い、その時2棟一緒にドキッとしたかのように点滅します。そして再びお互いの呼吸に戻っていくというストーリーが組み込まれています。これを光で表現すると、調光という方法でシーンを組むことになりますが、鼓動を表現するために、それが商業的で人口的な動きにならないよう気を配りました。それぞれ違う周期のサインカーブを描いた調光の組合せですが、広義の意味での正弦波(サインカーブ)は自然界でも海の波、音波、光波、など自然現象での波のカーブの基本になっています。複雑な周期的な波動を単純な周波数の正弦波の重ね合わせで現すというフーリエが発見したフーリエ級数が示すように、このシンプルなサインカーブは、すべての自然界の揺らぎつながるのでしょう。
ライトアップがエネルギー削減のひとつとして太郎と花子も息をひそめてしまいましたが、あの頃、もし高速道路で車の中から、2棟の呼吸に気付いていた人がいたとしたら、私は幸せで有ります。
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