和紙で光を操る
同じ光をうけても、素材の違いによって、物は様々な表情をみせてくれる、というのは何度かご紹介しています。色も同じ、照らしている光の量も同じ、であっても、その素材の反射率、透過率、反射方向の特性等々により、素材の見え方は変わってきます。ということは、創作活動のうえで、素材の種類を沢山使用可能であれば、その創作物に幾通りもの表情を創ることは予想可能なことであります。
しかし、和紙だけで色々な光の表情を紡ぎだしているアーティストがいらっしゃいます。現在、千駄ヶ谷のタンバリンギャラリーで個展を開いていらっしゃる、チャンキー松本さんです。和紙の貼り絵によって様々なシーンを生み出しているのです。数々の魅力ある作品の中から、私がご紹介させていただきたいのは特にこの二つ。
海の波の輝きや、幻想的な靄のかかった風景を表した「海のシルエット」と、題名のごとく、すべてを映してしまいそうな光沢を表現した情景の「映る」。(いずれも、チャンキー松本氏製作、撮影)
この表現を和紙の貼り絵のみで作り上げているところに大変興味を持ちました。おそらく、自然にお持ちの感性で導かれている作品なのだと思いますが、海の波間の輝きや、映り込みを予想させるような鋭い光沢感を演出するためには
、幾つかの光のルールがしっかり織り込まれている必要があり、それをさりげなく表現してしまうところが脱帽であります。
・輝きは輝度の絶対値で決まるのではなく、相対値で決まる。他の領域の輝度を下げ、低い輝度に眼が順応する工夫をする。
・輝きを創りたい領域のまわりの輝度を低くして、輝度対比を大きくする。
・輝く領域の周りを強いエッジで縁取り、周囲と分離した印象をつくる。
(一部、「光の建築を読み解く」彰国社 から引用)

海のシルエット

映る
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